吉田修一著 『ウォーターゲーム』

吉田修一さんの「鷹野一彦シリーズ」の三作目です。これで完結になるんでしょうか、そんな終わり方です。
 

ウォーターゲーム

ウォーターゲーム

 

 

産業スパイの物語で、旅行関連情報会社を隠れ蓑にしたAN通信という組織で働く(ともちょっと違う)鷹野一彦を主人公としたアクションもの、その実、描かれるのはスパイものと聞いて連想する「ミッション・インポッシブル」系のアクションシーンはほとんどなく、鷹野を中心とした青春群像物語です。だから面白いのです。

 

第一作目は『太陽は動かない』 、太陽光パネルをめぐる争いが物語の軸だったと思います。思いますというのもいい加減な話ですが、産業スパイものとしての核心的なことはまったく覚えていません(笑)。ただ、鷹野はもちろんですが、田岡、AYAKO、キムといった人物だけはしっかり記憶しています。(私にとっては)そういう小説ということです。

 

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二作目が『森は知っている』、この読後感にも書いていますが、この二作目を面白く読むことができたために、やっと一作目の『太陽は動かない』も読むことができたという流れです。あまりにも『太陽は動かない』の書き出しがつまらなかったということです(笑)。

 

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AN通信の産業スパイたち、鷹野、田岡たちは胸に自爆装置を埋め込まれており、一日に一回連絡を入れないと爆破されるという(笑)、現実にないとはいえないまでも、ちょっとどうよ? という設定なんですが、 そのあたりの話と鷹野一彦の生い立ちが描かれています。この二作目は吉田修一さんらしい内容です。

 

全作未読であれば、この『森は知っている』から読んだほうがいいように思います。

 

で、『ウォーターゲーム』です。

やはりこの作品も青春群像ものです。産業スパイものとしての争いの核は中央アジアの水利権で、そこに謎の人物リー・ヨンソンが登場し、彼はいったい何者かという話です。田岡もあやこ(ひらがなになっている)もキムも登場します。

 

他の二作の読後感にも書いていますが、とにかく、物語に緻密さはありませんし、設定はかなりダサいです(笑)。それでも面白いです。

 

吉田修一さんらしいのは、冒頭のシーンに登場する若宮真司という青年です。社会からはみ出してしまった若者らしく、ダム本体なのか関連事業なのか、日雇い的な立場だと思いますが、何か鬱屈した思いを抱えながら生きています。

その真司が働いているダムがいきなり爆破されます。

 

この思いっきりの良さがすごいですよね。ダムの爆破ですよ、当然、それによって下流では大災害が起きます。でも、そこには一切踏み込みません。荒唐無稽な話だと宣言しているのです。

 

吉田修一さんがこだわるのは真司という人物です。真司は鷹野と同じような過去を持つ人物です。しかし、心臓に何らかの問題を抱えており、ハードな産業スパイの務めには耐えられないだろうと振り落とされた人物です。

AN通信のスパイたちは皆孤児です。その中から選りすぐられた者は、過去を捨てさせられ、名前も変えさせられ、石垣島の南西に位置する南蘭島に送られます。彼(彼女はいるにしても登場しない)らはそこで特殊訓練をされ産業スパイとして育成されます。

 

こう書きますと、その島は陸の孤島、閉鎖的な空間で、彼らは日々過酷な訓練を強いられているだろうと想像してしまいますが、違うんです。その島はいわゆる東南アジアのリゾート・アイランドなんです。観光客も多く、彼らはその観光客を目当てに小銭を稼いだり、ごく普通(?)の島の少年たちと同じ青春を謳歌しているのです。

 

これが吉田修一さんの産業スパイ小説です。ハードボイルドではありません。結構クサい青春群像、友情物語なんです。

 

くどいようですが、だから面白いのです。

 

いきなりラストに飛びますが、さすがにこれじゃ物足りないと思ったのか(笑)、今回は、吉田修一さんの小説ではこれまで見たことのないようなハードアクションが展開されます。

 

ミッション・インポッシブルだ!

 

と驚いたのもつかの間、やはり、そこには吉田修一さんらしい鷹野と真司の友情(ちょっと違う)物語があるのです(涙&笑)。

 

このシリーズ、藤原達也さんで映画化されるとのこと、私はやめたほうがいいじゃないのとは思いますが、吉田修一さんはノリノリらしく、さらに本人のオリジナルストーリーのもと、WOWOWで連続ドラマ化されるようです。 

 

ありゃありゃ…。

 

太陽は動かない (幻冬舎文庫)

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森は知っている (幻冬舎文庫)

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