望月衣塑子著『新聞記者』 映画よりも権力の怖さがわかる

映画「新聞記者」の原案との触れ込みの望月衣塑子さんの「新聞記者」を読みました。 ああ、逆ですね、映画のほうが望月さんの名前を触れ込んでいるということです。

新聞記者 (角川新書)

新聞記者 (角川新書)

 

 

望月さんの名前をはっきり知ったのは、例の菅官房長官の記者会見で加計疑惑について執拗に食い下がって質問を続けたことが報道された時ですが、実はそれ以前に、日本の武器輸出が目に見えないところで進んでいるという中日新聞の署名付きの特集記事を読んだことがあります。

その記事を読んだのがいつだったかは記憶にありませんが、切り抜いておけばよかったとずっと後悔していましたので、記者会見の件が話題になった時に、あの記事を書いた人だと、すぐに『武器輸出と日本企業』を読んでいます。 

 

武器輸出と日本企業 (角川新書)

武器輸出と日本企業 (角川新書)

 

 

日本は戦後長らく「武器輸出禁止三原則」という、実は建前だけだったのかも知れませんが、それでも原則というものがあるないでは現実面で大きく変わりますので重要なことであり、それをもとに防衛産業に規制をかけてきています。

ところが、2014年、安倍政権のもと、「防衛装備移転三原則」というものに変更され、基本的には武器輸出を認めることに変わってしまっています。

 

で、この『新聞記者』ですが、映画との関連で言えば、まあ持ちつ持たれつということもあり、ともに注目されることはいいことかとは思いますが、これをあの映画の「原案」というのはちょっとどうかとは思います(笑)。

 

全然視点が違います。

 

 

映画は、レビューにも書きましたように、新聞記者の視点ではなく、安倍政権の強権的な権力指向が内閣情報調査室によって行われているという、言ってみれば戦前の特高や東ドイツのシュタージのような情報(操作)機構が存在しているという視点で描いていましたが、この本は、望月さんの自伝というべきもので、あの記者会見あたりですから、それまでのおよそ40年くらいの自分の歩んできた道を振り返っている内容のものです。

当然、新聞記者としての記述がほとんどですから、森友、加計、山口敬之レイプ事件など、安倍政権下で表にでてきた疑惑(ではなく事実なんだろうけど)への本人の怒りも結構書かれてはいますが、一貫しているのは、新聞記者としてどうあるべきかという自分への問いかけです。

 

ですので、映画より面白いです。それに、映画よりもはるかに権力の怖さが伝わってきます。

 

権力って、映画のように単純じゃないですよ。

 

望月さんが書いているのは、たとえば、記者クラブ、あの記者会見以降、記者クラブの幹事社の司会者が記者の質問を遮ったりする行為に出たりするわけです。メディアの人間が完全に権力の下僕(犬)に成り下がっているわけです。

そうしたメディアが多くなっているということです。この安倍政権、昔ならもうとっくに倒れていると誰もが言いますが、なぜか支持率も下がらず盤石です。理由は簡単、新聞やテレビが書かなくなったからです。昔は、時の政権に何かあれば新聞でもテレビでも毎日のようにその話題を扱っていました。

 

もちろん、権力の中枢は時の政権の内部です。それを伺わせることもかなり書かれています。

 

読売新聞が前川喜平さんの出会い系バー通いを報じた件で、望月さん本人が前川さんをインタビューしているのですが、その前川さんの話によると、報じられる2,3日前から、読売新聞の記者、そして文科省の藤原誠氏から立て続けにショートメールが入ったことやその藤原氏から総理大臣補佐官の和泉洋人氏の名前が告げられたことなど、明らかに官邸が動いていることがわかります。

 

現在、民事事件として争われている被害者伊藤詩織さんの山口敬之レイプ事件もみ消し疑惑も誰がどう考えても官邸の誰かが動いていることはわかっているのに誰も動こうとしません。

 

とにかく、この本、望月衣塑子さんの一面、真面目で率直なところがよくわかります。こんなことまで書いていいの? と感じるくらいに率直に書かれています。

ただ、本人も自覚しているようですが、割と目先のことにとらわれて突っ込んでいくタイプのようで、その点では、悪い意味ではありませんが、視野が狭いといえなくもありません。ただ、その後、それに気づけば素直に反省するようでもあり、その意味では、この本は、望月衣塑子さんの新聞記者としての成長記のようなところもあります。(偉そうでペコリ)

 

望月さんの所属は東京新聞、中部地方が主体のブロック紙である中日新聞の東京本社が発行している関東地区のブロック紙です。各所に、ブロック紙であるがゆえの嘆きや逆に誇れるところなどが出てきます。全国紙である読売新聞や朝日新聞へのあこがれがあるようで、読売新聞に誘われた時の喜びまで素直に書かれています。

「読売新聞は警察関連の事件に強く、朝日新聞は贈収賄や選挙違反といった捜査二課系の事件に強い」そうです。なるほどね。

 

映画の話をもう少し書いておきますと、映画が言っていることはみんなもうわかっているんですよ。問題は、なぜああなってしまうかということであり、ああなってしまうことをどうやって防げばいいかということなんだろうと思います。

 

www.movieimpressions.com