抗議の投稿が470万件を越えた「検察庁法改正案」を読んでみる

「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿が10日午後10時時点で470万件を越えたそうです。

東京新聞:#検察庁法改正案に抗議します 投稿470万件:社会(TOKYO Web)

問題の「検察庁法改正案」を読んでみました。

束ね法案で批判しにくくしてある

「検察庁法改正案」でググっても法案自体がヒットしません。

検索ワードをあれこれ変えてやっと見つけました。

第201回 通常国会|内閣官房ホームページ

いわゆる「束ね法案」というやつで「国家公務員法等の一部を改正する法律案」の中に入っています。自衛隊の海外派遣を認めた安保法制「安全保障関連法案」と同じやり方です。

束ねられた法案の数を見ると目がくらみます。

この一覧画像は上の内閣官房のリンク先にある「新旧対照表」の1,2ページです。

これを一気に審議するというのも無茶苦茶ですし、常識的に考えても、この法律はいいけどこれはダメということも言えなくなってしまいますし、もうこの段階で読むのも諦めちゃいそうです。

かなり意図的な法案の出し方です。

国家公務員法等の一部を改正する法律案

まずは「国家公務員法等の一部を改正する法律案」の文書内をひとつひとつ「検察」で検索していったのですが、とにかくわかりにくいです。暗に読まないでくださいと言っているようなものです(笑)。笑っている場合ではありません。

  • 概要」には、5.その他に「同様に定年の引き上げを行う」とでているだけです。
  • 要綱」には、17ページの第四に「検察官の定年を段階的に年齢六十五年に引き上げることとする等、所要の規定の整備を行うものとすること」とあります。
  • 法律案・理由」これが提出されている法案ということでしょう。68ページの第四条です。
  • 新旧対照表」93ページからです。これを見ていくのが一番わかりやすそうです。
  • 参照条文」現行の法律の該当部分のようです。

検察庁法改正案の概要

「新旧対照表」をみていきますと、改正案は検察官の定年を65歳に引き上げるためのものではあるのですが、なにかからくりがありそうです。

よく読んでいきますと「次長検事及び検事長が年齢六十三年に達したときは、年齢が六十三年に達した日の翌日に検事に任命する」とありますので、これは63歳で(平)検事に降格されるということだと思います。

それまで検察のナンバー2や高検のトップだった人が平に格下げされて検察にとどまることはありえないです。これを見ただけでも改正案の目的が定年を引き上げるためじゃないことがわかります。

じゃあ何が変わるかといいますと、特例があります。

検事総長、次長検事又は検事長」については「内閣が」あるいは「内閣の定めるところにより」3年を限度に1年ずつ延長できるとあります。

つまり、次長検事や検事長のうち「内閣」がこの検事はそのまま続けさせようと思えば続けさせられるということになり、事実上、検事総長、次長検事、検事長は内閣に人事権を掌握されるということになります。

現行法

現行法の定年に関する条文は 

第二十二条 検事総長は、年齢が六十五年に達した時に退官、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。

これだけです。

改正案

この第22条が8項に増えています。要約しますと、

  1. 検察官の定年を65歳にする
  2. (定年による退職の特例)
    検事総長、次長検事、検事長については「内閣の定める場合」は3年を超えない範囲で定年を延長できる
  3. 同様に、検事正又は上席検察官については「人事院の承認を得たとき」は3年を超えない範囲で定年を延長できる
  4. 次長検事と検事長は63歳になったら(平)検事になる
  5. ただし、次長検事と検事長は「内閣が定める事由があると認めるとき」は引き続きその職に1年とどまれる
  6. さらに、次長検事と検事長は「内閣」が必要と認めればさらにその職に1年とどまれる
  7. 5項で1年延長された次長検事と検事長は64歳で(平)検事になるが、6項に該当する場合は除く
  8. 4項、7項および必要な事項は「法務大臣が定める準則」により、5項、6項および必要な事項は「内閣」が定める

ということになります。

とにかく条文が入り組んでいてわかりにくいです。間違っていれば指摘したいただきたいのですが、これを整理してしまいますと、時の政権に気にいられなければ63歳で(平)検事、つまりやめろと言われ、気に入られれば、65歳まで次長検事や検事長にとどまることができ、さらにその中でもっとも気に入られた者が検事総長として68歳まで3年間続けられるということになってしまいます。

ほんとうに、これであってますかね!?

検察庁法改正案の意図

検察庁法の特別法の位置づけを無効化する

国家公務員法の改正では、定年を65歳に引き上げると同時に、管理監督職は(特例を除いて)60歳で役職を外れるという「役職定年制」という制度がもうけられます。検察庁法の改正にも同様の制度が採用され、次長検事と検事長には63歳で平検事に格下げされます。

そもそも検察庁法の改正の目的が「知識、技術、経験等が豊富な高齢期の職員を最大限に活用するため」であれば、現行の検事総長の定年65歳を(たとえば)68歳に、その他の検察官の定年63歳を65歳に引き上げる極めてシンプルな方法だってあります。

それをわざわざ国家公務員法の役職定年制を検察法にも当てはめるということは、検察法を国家公務員法の下に置こうとしているようにも思えます。

検察庁法は特別法であり、一般法の国家公務員法に優先します。

すでに安倍政権は今年の1月31日に黒川検事長の定年延長を閣議決定し、その後、これは国家公務員法が検察庁法よりも優先するという解釈変更をしたからという屁理屈を持ち出しています。

この改正案の意図のひとつはそれを明文化してしまおうということだと思われます。

検察人事を内閣が掌握する

現行法にも、検察の人事権は、

第十五条 検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。

と「内閣」にあるとなっています。たしかにそうなんですが、これまでは一定程度の独立性を持って運用されてきています(と聞いています)。

法律というのは運用や解釈で変わるという側面があり、これまでどの政権もこの独立性には手を突っ込まずにきたということだと思います。

今回の改正案はその独立性の明確に否定して、人事権は内閣にあることをさらに強固に明文化しています。

次長検事と検事長は63歳で定年になるが、「内閣が定める事由があると認めるとき」は65歳まで延長できるということは、内閣がうんと言わなければ検事総長にはなれないということです。

黒川検事長を検事総長にしようとしている?

黒川氏だけではなく、一般的に権力があるひとりの人物にそれほど執着することがあるとも思えませんが、この改正案で黒川検事長が検事総長になる道は開けるのでしょうか。それを狙った改正案なのでしょうか。

そのためには、現検事総長稲田氏が退官しないといけません。おそらくそのせめぎあいの中で黒川氏の定年延長が閣議決定されたのだと思いますが、仮に稲田氏が今年の7月に退官しない場合は、さらに黒川氏の定年を延長しなくてはなりません。

全くの想像でいえば稲田氏は7月で退官すると思いますし、仮にしなくても今の安倍政権なら黒川氏の定年を再延長するでしょう。

そうしますと、いつの時点かはわかりませんが黒川検事総長が誕生することは間違いないと思います。

黒川氏が現行法の検事総長の定年である65歳になるのは令和4年(2022年)2月です。

この改正法が施行されるのは令和4年(2022年)4月1日です。

黒川氏が検事総長でいられるのは1年半か半年ということになるのでしょう。

が、しかし、さらに裏技を使いそうな気もします。

附則の「検討」が怪しい

「法律案・理由」の133ページからが「附則」になっており、確かに施行期日は令和四年四月一日となっているのですが、(またも)ただしとあり、「附則第十六条の規定は、公布の日から施行する」となっています。

その附則第十六条(173ページ)には「検討」とあり、

政府は、国家公務員の年齢別構成及び人事管理の状況、民間における高年齢者の雇用の状況その他の事情並びに人事院における検討の状況に鑑み、必要があると認めるときは、新国家公公務員法若しくは第八による改正後の自衛隊法に規定する管理監督職勤務上限年齢による降任等若しくは定年前再任用短時間勤務職員若しくは定年前再任用短時間勤務隊員に関連する制度又は第四による改正後の検察庁法に規定する年齢が六十三年に達した検察官の任用に関連する制度について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとすること。

という意味がよくわからない項目があります。

これでなにかできるのかどうかはわかりませんが、黒川氏の定年再延長の布石ぐらいにはなるのでしょうか。そうすれば、黒川氏が68歳まで検事総長でいられるようにすることも可能かもしれません。

法律の公布は内閣法制局のサイトに「法律は、法律の成立後、後議院の議長から内閣を経由して奏上された日から30日以内に公布されなければなりません。」とありますので、成立すればほぼいつでも公布できるのではないかと思います。

今国会の会期末は6月17日です。

検察が正義というわけではないけれど…

表題どおり、検察が正義というわけではありませんが、この改正案はヤバいです。

完全に権力が一元化してしまいます。

緊張感のない権力は腐ります。すでに現在でも腐っていますが、この改正案は民主主義にとどめを刺されるような法律です。

武器としての「資本論」

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